トランスフェクションとは核酸を細胞内へと導入する手法であり、遺伝子発現を迅速に効率的に操作するための素晴らしいツールです。トランスフェクションにより特定タンパク質の発現を抑制することや外来又は変性タンパク質の発現を誘導することができるため、神経機能を制御する細胞および分子過程の研究に利用されます。しかしながら、成熟ニューロンへの核酸の導入は容易ではなく、細胞に遺伝子操作を加えるためには専門的なテクニックが必要となります。
このビデオでは、ニューロンへのトランスフェクションの原理と一般的に用いられる3種類のテクニック: ヌクレオフェクション、遺伝子銃(微粒子銃)トランスフェクション、ウイルスを用いた形質導入、について紹介しています。 これらのテクニックにより核酸がどのようにニューロンに取り込まれるのか、さらにそれらの実施手順を解説しています。そして最後に、神経細胞へのトランスフェクションを利用したアプリケーション例を紹介しています。ここでは、ニューロンの形態を可視化するために蛍光チューブリンタンパク質を発現させる実験やパーキンソン病の細胞培養モデル作製のために選択的な遺伝子サイレンシングを利用する研究をご覧いただけます。
トランスフェクションとは、核酸を哺乳動物の細胞内に導入する手法のことで、神経細胞や神経組織の遺伝子をコントロールすることができます。細胞は非常にデリケートであるため、時にトランスフェクションは容易ではなく、専門的な技術が求められます。
このビデオでは、神経細胞へのトランスフェクション法の原理と共に、一般的なテクニックであるヌクレオフェクション、遺伝子銃(微粒子銃)トランスフェクション、ウイルスを用いた形質導入について解説していきます。最後にこのテクニックを利用した細胞および分子神経科学研究を紹介します。
それではまずトランスフェクションの原理を学びましょう。遺伝物質を細胞培養液中に添加したとしても、ヌクレオチドが細胞膜を通過する効率は決して良くありません。
そこで全てのトランスフェクションのプロトコルは遺伝物質がこのバリアを通過できるようにデザインされています。RNAサイレンシングのようなタンパク質の生成を阻害するヌクレオチドは細胞質に取り込まれるとすぐに機能し始めます。しかしながら、DNAコンストラクトが機能しタンパク質合成まで行き着くためには、必ず核に取り込まれる必要があります。細胞が分裂する場合、その核膜は壊されているため、導入したDNAは娘細胞核に容易に取り込まれます。しかし、神経細胞のほとんどは細胞分裂しないため、目的の遺伝子発現を成功させるためには特別なプロトコルが必須となります。
それではヌクレオフェクションのプトロコルを見てみましょう。これは、電場と化学試薬を組み合わせて用いるテクニックです。細胞膜と核膜の両方に一時的に穴を開けることができます。ヌクレオチドは電荷をもつため、電場を利用してDNAの輸送をコントロールできるのです。
ヌクレオフェクションの手順は、まず遠心分離によって神経細胞を集めペレット状にし、それからヌクレオフェクション用試薬で再懸濁させます。次にその細胞混合物を精製DNAと混合し、エレクトロポレーション用キュベットに移します。ここにある2枚のアルミ板がヌクレオフェクターとの電気接点となります。
これは短い電気パルス波を発生する装置であり、細胞に合わせてその回数や時間を設定できます。ヌクレオフェクション終了後は細胞を培養液で希釈し播種して培養を継続できます。
その他にも、遺伝子銃を用いるテクニックがあります。遺伝物質をコーティングした弾丸を打ち込み細胞膜および核膜を通過させます。
遺伝子銃用の弾は、目的遺伝子をコードしたDNAを金粒子などのビーズに付着させて作ります。10分間のインキュベーション後、洗ってからチューブに移します。チューブを回転させ、溶液が乾燥するころには均一にコーティングされた弾ができあがります。次に、チューブをカットし、遺伝子銃に弾を充填します。あとは引き金を引くだけで、ガスの力で遺伝物質を培養プレート内の細胞に導入できます。
次は、ウイルスのライフサイクルを利用し外来遺伝物質を核に取り込ませる形質導入です。目的の遺伝子をコードしたRNAをレンチウイルスベクターという組換えレトロウイルスに挿入します。ベクターが細胞膜タンパク質特異的に結合することで膜融合が起こり、標的細胞に取り込まれる仕組みです。そしてウイルスが持つRNAが相補的DNA鎖へ逆転写され、核に取り込まれます。
ウイルスは培養細胞だけでなく、あなた自身がもつ細胞にも感染する危険性があります。必ず安全ガイドラインに従って実験を進めて下さい。
最初のステップは、目的遺伝子を運ぶためのレンチウイルス粒子の作製です。それにはウイルス産生に最適なヒト細胞株293T細胞などを用います。不必要なウイルスの複製を防ぐために、導入する遺伝子は感染性を持つトランスファーベクターとは別にしておく必要があります。
完全な組換えウイルスが培養液中に放出されるまで約2日かかります。その後ウイルスを回収し、超遠心分離法で濃縮します。次に、テスト細胞株で導入効率を測定し適正なウイルス濃度又は力価を決定します。その後レンチウイルスベクターを培養した神経細胞に加え、通常24時間〜48時間インキュベートし感染させます。
一般的なトランスフェクションテクニックを学んだところで、実験への応用方法を考えてみましょう。いくつか例を紹介します。
培養した神経細胞の成熟度を観察することで、神経ネットワークに重要となる形態変化を詳細に解析できます。例として樹状突起スパインの形成が挙げられます。
経時的な細胞形態を観察するために、ヌクレオフェクションにより培養神経細胞に蛍光タンパク質を導入し可視化します。
ここでは、蛍光標識したチューブリンというタンパク質を導入し、蛍光顕微鏡を用いて細胞の突起を詳細に解析しています。神経細胞での発現レベルは長期間維持され、最低でも1ヶ月は観察が可能となります。
また、ある遺伝子変異が神経機能に与える影響を調べるためにもトランスフェクションが利用されます。遺伝子銃を使って野生型又は変異型タンパク質をコードしたDNAを導入し、短期的な影響を細胞生物学的に評価します。解析にはパッチクランプ法などが用いられます。
さらに、遺伝子の機能を調べるためにその発現を抑制して細胞を観察する手法がよく利用されます。例えば、レンチウイルスベクターを用いてRNAサイレンシング用コンストラクトを導入し、タンパク質の合成を阻害します。ここでは、細胞生存性を大きく低下させるパーキンソン病関連遺伝子をノックダウンしています。
ここまで神経細胞へのトランスフェクションについてご覧いただきました。このビデオでは、トランスフェクションの原理と手順および3種類の一般的なプロトコルを紹介しました。ご覧いただきありがとうございました。
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