子宮内エレクトロポレーション法は、細胞が増殖、分化、遊走、成熟と発生していく分子メカニズムを明らかにするために欠かせないテクニックです。エレクトロポレーション法は、電気パルスを利用して細胞膜に一時的に穴を開け、その穴を通して遺伝物質を細胞内標的部位に素早く導入する手法です。一般的にin vitroの実験に利用されますが、現在では動物の組織、例えばマウスの子宮内で発生中の胎児を用いたエレクトロポレーション法も実施可能となっています。
このビデオでは、子宮内エレクトロポレーション法の基本原理に加え、妊娠動物子宮内で発生中の胎児へアクセスするために必要となる外科的処置の基本手順も学ぶことができます。特定の脳領域に遺伝子を導入する際のポイントと共にインジェクションおよびエレクトロポレーション法の詳細なステップを紹介しています。さらに、特定の遺伝子が神経発生にどう関わっているのか、また発達中の神経がどのようにネットワークを形成していくかなどといった子宮内エレクトロポレーション法の神経生物学研究への研究例をご覧いただけます。
子宮内エレクトロポレーション法は、神経系の発生を誘導する分子メカニズムを明らかにするための重要なテクニックです。発生途中の齧歯類の脳内に外来DNAを取り込ませ遺伝子発現を変化させることで、自然環境下での神経細胞の増殖、分化そして成熟について調べることができます。このビデオでは、子宮内エレクトロポレーション法の原理と基本手順、そして神経生物学研究でのアプリケーション例を紹介していきます。
このテクニックの詳しい手順の前に、原理について少し解説しておきます。エレクトロポレーション法は電気パルスを利用し、細胞膜に一時的に穴をあけDNAを細胞内に導入する手法です。DNAは負に帯電しており陽極側へと移動するため、電極の位置を変えることで異なる細胞集団を標的とすることができます。エレクトロポレーション法は一般的にin vitroの実験に利用されますが、現在では動物の組織、例えばマウスの子宮内で発生中の胎仔を用いて実施されることもあります。
子宮内エレクトロポレーション法は、細胞培養や生体外での実験とは違い、遺伝子を導入した細胞が生体内で通常の発生プロセスを継続できるという利点があります。特に脳内で軸索の形成が行われる際にはそれを誘導する他の細胞型とのやり取りがとても重要になります。脳の発生過程には、細胞の増殖および遊走がプログラムされているため、エレクトロポレーション実施のタイミング次第で様々な組織層を標的とできるのです。
さらに、電極の種類を選択することで、脳の表面付近でも深部でもアクセスが可能となります。パドル電極は脳の表面付近、例えば大脳皮質や海馬を標的としたいとき、また細いニードル電極は脳の深部、例えば視床や視床下部を標的としたいときに利用します。
このテクニックの原理について学んだところで、外科的処置および子宮内エレクトロポレーション法の準備を整えていきましょう。
まずは全ての器具を滅菌し作業領域を70%エタノールでしっかりと拭いておきます。次に、プラスミドDNAを0.1%Fast Greenを含む無菌PBSで溶解し注入液を調製します。Fast Greenで着色しておくことで胎仔に注入した溶液が容易に観察できます。最後に、ニードルプラーで作製した極細のニードルを使うことで、羊水の損失による胎仔の死亡率を最小限に抑えることができます。
準備が整ったところで、発生中の齧歯類の脳組織内へのエレクトロポレーション法を実施していきます。
まずは5%イソフルランを使って妊娠マウスに麻酔をかけ、その後、処置中は2.25%イソフルランで吸入麻酔を行います。次に、術後の鎮痛処置としてブプレノルフィンなどの鎮痛剤を皮下投与しておきます。それから腹部の毛を剃り消毒します。
子宮を確認するために、正中線に沿ってはさみで縦に切開します。それから腹膜を切り開きます。胎仔が乾燥しないように、無菌食塩水を含ませたガーゼをあてておきます。次に腹腔から胎仔の入った子宮角を優しく取り出し乾燥しないように温めた生理食塩水で湿らせておきます。
解剖顕微鏡を使って適切に操作を加えるために胎仔の位置を確認します。指又はピンセットで胎児の頭を固定しDNA溶液を子宮壁から脳内へと注入します。胎仔の頭部を電極ではさみます。このときDNAを導入したい部位を陽極側にします。胎仔に適切に電気パルスを加えたら、慎重に子宮角を腹腔内へと戻します。
腹腔内を2,3mlの温めた生理食塩水で満たしてから縫合していきます。腹膜を吸収性縫合糸で縫った後皮膚をホチキスで閉じます。その後は保温マットとモニターの付いたケージでマウスを管理して下さい。
子宮内エレクトロポレーション法の実施方法の次はこのテクニックのアプリケーション例を見ていきましょう。
子宮内エレクトロポレーション法は特定の遺伝子が神経発生にどう関わっているのか調べるための有用なツールです。遺伝子を導入することで、野生型又は変異型タンパク質の過剰発現を誘導することや、逆に抑制することもできます。その後神経系の表現型を顕微鏡又は生体レベルで評価します。発生中のマウスの脳に統合失調症に関わるDISC-1遺伝子を一時的に過剰発現させる実験では、高齢期にアンフェタミンに対する感受性が亢進することが確認されています。
蛍光タンパク質をコードした配列を神経組織に導入し、特定の細胞集団とネットワークを観察するためにも子宮内エレクトロポレーション法が活躍します。ここでは、GFP遺伝子を胎生13.5日の網膜に導入し、目から脳へと視覚情報を伝達する網膜神経節細胞又はRGCの研究が行われています。胎生18.5日の網膜検査の結果から、RGCの軸索が視神経、視交叉、視索を通過していることを確認できます。
最後に、出生後の重要な神経発達を標的とした、in vivoエレクトロポレーション法を利用した実験を紹介します。この手法は基本的な原理は子宮内エレクトロポレーション法と同じですが、違いは生後数日のうちに実施されることです。生後の遺伝子操作では、ここで見られる嗅球内の細胞のように、後で生まれてくる細胞型が標的となります。
ここまで子宮内エレクトロポレーション法についてご覧いただきました。このビデオではこのテクニックの原理と基本的な実施手順、さらに神経発生に関わる分子メカニズムを解明するための研究例を紹介しました。ご覧いただきありがとうございました。
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