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モリスウォーターメイズ(水迷路)

概要

モリスウォーターメイズ(水迷路)は、空間学習、空間記憶を研究するための行動実験として広く利用されます。マウスへの最初の課題は、プールの水から逃避するために設置されたプラットフォームの位置を探索させることです。次に、そのプラットフォームを水面下に隠し、今度は記憶を手がかりに探索させます。この単純で素晴らしい水迷路を利用して、認知機能の評価や神経変性疾患モデル動物を用いた研究、さらに薬の治療効果について試験することができます。

このビデオでは、モリスウォーターメイズとテスト実施のための原理を紹介しています。水迷路を用いて評価できる記憶の種類やそれらの実験を計画、実施するための重要なポイント、またテストのセットアップおよび実施手順について解説しています。そして放射線治療が記憶に及ぼす影響の調査など、水迷路課題が有用となる実験を数例紹介しています。さらに、8方向放射状迷路のような異なる種類の迷路も紹介し、そのパラダイムと適合する記憶の種類について解説しています。

手順

モリスウォーターメイズは学習および記憶能力を研究するための素晴らしいツールです。齧歯類は泳ぐことはできますが、より陸地を好みます。その習性を利用するのがこの水迷図です。水から逃避するためのプラットフォームを設置し動物に場所を覚えさせます。訓練後にプラットフォームを水面下に隠し今度は視覚的手がかりを元に探索させます。

このビデオでは、モリスウォーターメイズテストの原理、セットアップおよび実施方法、さらにその他にも水を使用する行動実験を紹介しています。

それでは、モリスウォーターメイズテストの基本コンセプトを解説していきます。前述の通り、動物は、部屋に貼った目印となるポスターなど視覚的手がかりを利用して隠されたプラットフォームを探し出します。記憶の形成には海馬などの特定の脳領域が重要な役割を果たします。プラットフォームにたどり着くまでの時間を測定しその変化を評価することで、空間認知や記憶学習能力について研究することができます。

記憶を定量化するために、プールの領域を4分割にし、プラットフォーム周辺を動物が探索するかどうか評価します。この4分割の概念はプラットフォームを取り除いて実施するプローブトライアルにも有用になります。訓練終了後24時間以降でも動物が正しい位置を探索することができれば、長期記憶又は「参照記憶」が形成されたことを示します。

同様に、プラットフォームの位置を変えて行うリバーサルトライアルでは、プラットフォームがなくなったことを認知し他の場所を探索できるのか評価します。

たくさんの動物を用いて多くのトライアルからデータを取得するため、これら得られた結果にはばらつきが見られることがあります。

動物の行動に影響する因子として、温度、湿度、時間帯などが挙げられます。そして実験者も意図的にではないにしろ視覚的手がかりとなり得ます。なので実験者の位置にも注意を払って下さい。

また、それぞれの動物間でもばらつきが見られるため、実験動物グループの週齢と性別はそろえるようにしましょう。動物に運動障害がある場合や目の機能が落ちている場合、適正に学習できないため、水迷路課題には適していません。

ここからは水迷路のセットアップ方法を見ていきましょう。まずはプールに冷たすぎない水を満たします。次に、部屋の中に視覚的目印を設置します。四分円に対し少なくとも一つは目印を準備して下さい。

学習トライアルはプール内にプラットフォームを設置するところから始まります。次に、動物をゆっくりと水の中に入れます。このとき頭まで浸からないよう注意して下さい。

動物にプール内を探索させプラットフォームにたどり着くまでの時間を記録します。約60秒以内にプラットフォームを見つけ出せないときには、そこまで動物をガイドし10から20秒間とどまらせます。そして乾かしてから温かいケージに戻します。この手順を何度か繰り返し、異なるスタート地点からでもプラットフォームにたどり着けるようになったら訓練終了です。

次は、プラットフォームを隠して動物に探索させるテストです。まず水位を少し上昇させ、プラットフォームが隠れるように粉ミルクや毒性のないペンキを水に加えます。このトライアルでは、各四分円内での滞在時間と水面下のプラットフォームにたどり着くまでの時間を記録します。

先ほどと同様に動物が60秒以内に課題を達成できない場合にはプラットフォームまでガイドし少し留まらせてから取り出します。この手順を同じ日に少なくともあと2回繰り返し、異なるスタート地点からでも成功するように訓練します。

訓練終了後24時間後に今度はプラットフォームを取り除いてプローブトライアルを実施します。再び60秒間動物にプールを探索させます。各四分円内での滞在時間を観察し測定します。

モリスウォーターメイズの基本を学んだところで、行動科学実験への応用例を紹介していきます。

水迷路のような行動実験は学習と記憶の分子生物学的研究にも非常に有用です。定位脳手術などのテクニックを用いて脳内の遺伝子を操作することで学習への影響を直接評価できます。また、アルツハイマー病などの記憶に影響の出る遺伝性障害モデル動物を利用し分子メカニズムを解明することでリスクファクターや有力な治療法の発見につながります。

行動実験を利用することで、頭部外傷や低酸素症また特定脳領域の病変などの脳損傷が学習と記憶に与える影響について研究することができます。

放射線などの内科的治療法により脳が障害され記憶に悪影響を及ぼすことがあります。

放射線照射を受けた動物はコントロール動物に比べ水迷路課題の成績が悪いことが分かります。いろいろな治療法を試験することで、放射線治療を受ける患者の認知機能障害を予防する方法を探索しています。

齧歯類に迷路内を探索させるために水が効果的であることから分かるように、その他にも水を使用する迷路テストが存在します。パドリング迷路は動物へのストレスを緩和できるようデザインされたものです。このようにプールの端に出口があることで泳ぎの必要性を軽減しテストを行うことができます。8方向迷路では、動物は出口を見つけるためにより複雑な空間認知能力を求められます。これは参照記憶と短期作業記憶の両方を同時にテストできるようデザインされたものです。

ここまでモリスウォーターメイズについてご覧いただきました。この水迷路を利用することで動物の学習と記憶について研究でき、生物の行動の謎が明らかになることでしょう。ご覧いただきありがとうございました。

開示

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タグ

Morris Water MazeLearning And MemoryRodentsSmall PlatformEscapePool Of WaterVisual CuesExperimentationHippocampusMemory FormationSpatial LearningMemory AssessmentProbe Trial

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Overview

0:48

Principles of Water Maze Testing

3:02

Running a Water Maze Experiment: Learning

4:11

Running a Water Maze Experiment: Memory

5:12

Applications

7:18

Summary

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