神経生理学は神経系のメカニズムを研究するための学問です。組織全体、細胞間、単一細胞、細胞内コンパートメントなど様々なレベルでの中枢神経系と末梢神経系についての解明が試みられています。神経生理学の目的は、ニューロン間の電気インパルスの発生、伝達のメカニズムを明らかにすることです。これにより、人間の思考という興味深いプロセスの解明だけでなく、神経系機能不全に関わる病気の診断法や治療法の発展へとつながります。
このビデオでは、神経生理学の概要を紹介しています。最初に、Galvaniによるカエルの脚が痙攣する現象の発見やEcclesによる化学シナプスの発見などの神経生理学研究の歴史的背景を紹介し、次に、神経生理学の鍵となる研究内容やそれを解明するためのすばらしいツールを紹介しています。そして、単一細胞を解析するためのパッチクランプ法や広い領域で脳活動を測定できる脳波記録法(EEG)などのテクニックについて解説しています。最後に、思考により装置をコントロールするブレイン・マシン・インターフェースのシステム開発など、神経生理学研究のアプリケーションを紹介しています。
神経生理学は神経系のメカニズムやその疾患への関わりを明らかにするための手段となります。生理学は生体やその機能を研究するための学問です。中でも神経生理学は、特に神経系、例えば脳、脊髄、抹消神経系、感覚器官などのメカニズムを解明する分野となります。
神経系の研究には、神経システム、神経回路、単一ニューロン、ニューロンの一部など様々な組織が使用されます。
このビデオでは神経生理学の歴史的背景、また鍵となる研究内容と主なテクニック、さらに実際の研究例を紹介して行きます。
まずは神経生理学分野のすばらしい研究成果を見ていき ましょう。
紀元前1600年頃にはすでに神経系に関心を示されていたことが、古代エジプト人が残した記述から説明できます。
それから時は進んで1771年、Luigi Galvaniは電気ショックによりカエルの脚がけいれんすることを発見し、これは「動物電気」によるものだと提唱しました。
この動物電気は1840年代に、Emil Du Bois-Reymondによって実際は神経インパルス又は「活動電位」であることが証明されました。
1924年には、Hans Bergerが脳全体の電気的性質を脳波記録、EEGを使って検出しました。これは現在でも頻繁に使用されているテクニックです。
その後1939年にAlan Hodgkin、Andrew Huxleyにより神経細胞膜が荷電粒子の流出入に関わっていることがイカの巨大軸索を使って証明されました。
1951年Sir John Ecclesによってニューロン間で情報伝達が行われるという重大な発見がなされました。一つのニューロンが発した電気信号は化学シナプスによって化学信号に変換され次のニューロンに伝達されます。
1976年にはErwin Neher 、Bert Sakmannによってパッチクランプ法が開発されました。これにより細胞膜の興奮性を詳細に調べる研究が可能となりました。
そして2005年、Karl Diesseroth、Ed Boyden、Feng Zhangにより革命的な技術となるオプトジェネティクスが考案されました。これは光感受性チャネルをニューロンに発現させその活動をコントロールする方法です。このチャネルは「オプシン」と呼ばれるタンパク質ファミリーに属します。チャネルを光で活性化させ特定のニューロンを興奮又は抑制でき、以前は不可能であった神経回路の精密な操作も可能となりました。
この分野の歴史的背景を学んだところで、今日の基本的な研究内容を見ていきましょう。
神経生理学分野では細胞そして分子レベルでの各ニューロンのメカニズム解明に関心が示されています。
例えば、樹状突起上のある受容体がどのようにポストシナプスの活動電位に影響するのか調べられています。他にも、シナプスでの興奮と分泌の関連性、つまり神経の興奮とプレシナプス機能が神経伝達物質に与える影響が研究されています。
また、ニューロンで処理された情報が樹状突起から中心部にどのにように伝達されるのか研究されています。ニューロンの軸索、樹状突起、樹状突起スパインを同時に調べるために様々なテクニックが利用されます。
神経回路での情報処理についても研究が進められています。通常、予想される単一行動や刺激に対する反応の観察が行われます。
中には、神経系全体の活動パタンを解明しようと試みる研究者もいます。ここでは脳の活動が黄色と赤で示されており、被験者の行動に従って脳領域で動きが観察できます。
このように、ニューロン内の単一分子から脳全体の活動に至るまで様々なメカニズムの解明が試みられているのです。
神経生理学分野で進められている研究について知ったところで、これらを解明するための研究方法を紹介していきます。
パッチクランプ法は細胞そして分子レベルでニューロンを研究するために広く利用されるテクニックです。微小ガラス電極をニューロンに密着させ少し吸引することで、細胞全体の興奮性をモニタリングできます。また、細胞から切り取った膜を使用してパッチクランプ法を実施すると、細胞膜の内側へのアクセスが可能となり、薬理学的処理を加えることができます。
カルシウムイメージングを使ったニューロンの興奮性の計測も行われます。あらかじめカルシウムの濃度変化に応じて蛍光強度が変化する試薬でニューロンを染色しておきます。細胞内カルシウムには多くの機能があるため、カルシウムイメージングはこのニューロンのように活動電位の間接的指標となります。
神経回路を調べるには大量のニューロンを同時に観察できなければなりません。多重電極を用いた解析は、多数のニューロンを同時に検出するための手段のひとつとなります。
他にも神経回路の研究にはオプトジェネティクスが応用されます。光感受性チャネルを発現させたニューロンに光を照射することで、チャネルを開口させたり、イオン選択性によりニューロンを抑制又は興奮させることで、神経回路でのニューロンの役割や制御される反応について明らかにできます。
より広範囲の活動パタンを観察するために様々なテクニックが利用されます。脳波記録法又はEEGは頭に電極を配置し脳全体の電気活動を検出する方法です。また、脳の表面に電極を配置する皮質脳波記録法、ECoGを使って同様に電気活動を検出できます。このテクニックはてんかん患者に対する臨床診断法として用いられています。その他にも、機能的近赤外分光法があります。赤外線を照射しニューロンの活動と相関する酸素使用量を測定することで、行動タスクを伴う研究が可能となります。
一般的な研究アプローチ法を知ったとことで、実際に神経生理学の研究をのぞいてみましょう。
神経生理学の目標の一つはてんかんなど神経系機能障害の原因と治療法を突き止めることです。電極を埋め込み皮質の脳波を検出することで発作の原因となっている脳部位を特定することができます。
神経生理学分野にブレイン・マシン・インターフェースという画期的な技術が登場しました。この技術を利用すると、例えば被験者が画面上のカーソルを動かそうと考えているときの脳の活動を観察できます。脳活動は指令信号としてコンピューターに送られます。これは考えることで装置を制御するシステムです。
また先にも述べたように、神経回路の研究にオプトジェネティクスが応用されています。マウスの脳に取り付けられたカプラーに 光ファイバーコードを接続することで、特定の神経回路を刺激したときの行動変化を観察することができます。
ここまでJoVE神経生理学入門編をご覧いただきました。神経生理学の歴史的背景と主な研究内容、そして現在用いられているテクニックを紹介しました。ご覧いただきありがとうございました。
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